何もかもあつけらかんと西日中  万太郎

     終 戰
  何もかもあつけらかんと西日中


 久保田万太郎の句です。昭和二十年八月十五日の作,季語は西日(夏)です。

 一九四五年八月十五日を知らないおじさんの八月十五日は,皇居二重橋を遠景にして,地べたに這ひつくばつた人たちが写つた写真なのです。が,「何もかもあつけらかんと西日中」は,あの写真が,八月十五日の全てではなかつたと云ふことを教へてくれました。
 「何もかもあつけらかんと」とは,よくも云つたものです。芭蕉は,切れ字がなくても句は切れると云つてゐますが,万太郎は,切れどころかぶつた切つてゐます。「西日」と云ふ季語を使ふことで,切れた句を「西日」がつがふはたらきをしてゐます。また「何もかもあつけらかん」なのです。万太郎のなかには,「西日」とゐふ季語が先にあつたと思へます。


     八月二十日,燈下管制解除
  涼しき灯すゞしけれども哀しき灯


●句 「これやこの」(昭和二十一年三月刊 生活社),「句集 こでまり抄」(一九九一年九月刊 ふらんす堂